<こちらの記事は、SMOタブロイド誌「TOKYO 2018」からの抜粋です。TOKYO20xxシリーズについて、最新版は、こちらよりダウンロードいただけます>

 

――編集者出身の佐渡島さんは、今までさまざまなモノやコトの価値を見出し、伝えてこられましたが、「東京」という都市についてはどのように捉えていますか?

佐渡島 なかなか難しい質問ですね。そもそも、東京は非常に繊細な都市。京都といえば誰もが瞬間的に伝統的な街並みを連想するけど、東京に対するイメージは人によって違う。

――たしかに、一駅進むだけで空気がガラッと変わりますよね。

佐渡島 その繊細さが東京の強みでもありますが、海外にアピールするとなると伝わりづらい。やはり明らかに他が真似できないことをウリにするべきです。僕は出版社でコンテンツを作ってきたこともあって、「東京はコンテンツを感じられる最たる場所」と言い切りたい。しかしながら、日本は今のところ中国や韓国に押され気味で、本当に勝てるんだろうか?という疑問が残る。「近未来的」というキーワードもあるけど、それなら上海の方が優勢じゃないかという気がするし。

――そうすると、東京にはどんなコンテンツがあればよいでしょうか。

佐渡島 新しく何か作るのではなく、既にある強みにきっかけを与えてやればいいのではないかと思います。少々、話は脱線しますが、今、「ZOZOSUIT」が話題になっている。身体の寸法を瞬時に採寸できるボディースーツ。もはや、服が情報を取れる時代なんです。今後、例えば、スポーツ選手の心拍数をリアルタイムでキャッチすることだって可能になるかもしれない。そしたら、ピッチャーやバッターの心拍数の変化によって、打つかも、打たれるかもと、観客は手に汗握って楽しむ観戦スタイルが実現するでしょう。それから、コンサートでのファンへの対応も変わるかもしれません。アリーナ席の観客の心拍数は上がっているのに、スタンド席の観客の心拍数は下がっている。ならば、スタンド席を意識したパフォーマンスをやることで、会場全体を盛り上げる。

――観客は満足し、アーティストの好感度が上がる。言うことなしですね。

佐渡島 詰まるところ、世の中は“見立て”によって激変するんです。だから、今、僕は「コルク」という会社の経営者として、“現実”にどんな見立てをかぶせたら面白くなるかを、日々、考えています。僕らがエージェント業務を引き受けているAR三兄弟のプロジェクトなんかはまさにそれ。僕が起業した2012年時点では、AR(拡張現実)は2030年代まで来ないと言われていた。それが、すでにビジネスシーンで活用されつつある。2020年代は確実にARの時代。ARの技術で東京の“らしさ”を可視化する。そうすれば、東京の当たり前だった概念が変わり、もともとあったのに見えていなかった魅力が掘り起こされるはずです。

――なるほど。ところで、佐渡島さんのモチベーションの源は? やはり、楽しいとか面白いとか?

佐渡島 そうです。でも、ちゃんと楽しめている人は意外と少ない。海外を旅しても楽しみ方がよくわからないから、とりあえず世界遺産を訪れる。「世界遺産」というキャッチに負けてしまうんですね。僕自身は、繊細な感動を貯めることのほうが大事だと思っています。木漏れ日が綺麗だとか、道ですれ違った子供の笑顔が可愛かったとか、そんな些細なことでいい。面白いのが、同じものを目にしても、職業が違えば感動のポイントも異なるということ。帝国ホテルに行ったとして、建築家はデザインに、サービス業の人はホスピタリティに魅せられる。その感動を可視化するのがインターネット。糸井重里さんもおっしゃっていましたが、インターネットは“フラット”で、“リンク”かつ“シェア”できる。インターネットによって社会は透明化され、今まで一部の知識人にしか許されていなかったのが、誰もが平等に五感で得たことを発信できるようになった。

――やはり、キーワードは「可視化」ですか?

佐渡島 ええ。可視化こそが最も面白くて、人にアクションを起こさせる可能性を孕んでいる。人は他人にアドバイスされても変わらない。自分で気づいたら変わる。見えていなかった現実が目の前にさらされたときに心を動かされるんです。東京の裏側にどうやってインターネットのエンジニアリングを導入していくか。それこそが、これからの鍵を握るのは明白です。

――最後に、佐渡島さんのなりたい姿を教えてください。

佐渡島 死ぬときにいい人生だったと思えるようにしたい。そのためには純粋に楽しむ。インタラクティブな世の中においては、自分らしさを貫くことが重要で、それこそが僕が最も大切にしている考え方です。

 

佐渡島庸平(さどしま・ようへい)

株式会社コルク代表取締役社長。1979年生まれ。東京大学文学部を卒業後、2002年に講談社に入社。週刊モーニング編集部にて、『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『モダンタイムス』(伊坂幸太郎)、『16歳の教科書』などの編集を担当する。2012年に講談社を退社し、クリエイターのエージェント会社、コルクを創業。著名作家陣とエージェント契約を結び、作品編集、著作権管理、ファンコミュニティ形成・運営などを行う。現在、漫画作品では『オチビサン』

『鼻下長紳士回顧録』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『ドラゴン桜2』(三田紀房)等の編集に携わっている。従来の出版流通の形の先にあるインターネット時代のエンターテイメントのモデル構築を目指している。