SMOのアメリカ在住コンサルタント:Justin Leeによる、パーパス経営のヒント「パーパス・ドリブン・ブランドの戦略から学ぶ」。
本日はLinkedln社のケーススタディをご紹介します。


A Case Study of Purpose-Driven Brand Strategy
LinkedIn

画面に映る、一人の全身宇宙飛行士の姿。カメラがゆっくりズームインする。次第に上半身が画面の中心になり。カメラがさらに前に進むと、その宇宙飛行士の顔がはっきりと見えるようになる。
「What is your moonshot?」(あなたのムーンショット目標とは?)の文字がフェードインすると、最後に、「You’re closer than you think.」のコピーに切り替わる。我々が宇宙飛行士になるような高い目標との距離は決してそんなに離れていない、というのがメッセージだ。

これは、世界最大のビジネス特化型オンラインネットワークのLinkedInが2016年に展開した動画。この動画のベースになったLinkedInのパーパスと、彼らのパーパス・ブランディング戦略について探ってみよう。

2002年設立、世界に8億1千万人以上の会員を持つLinkedInは、企業(B-to-B)とエンドユーザー(B-to-C)向けにサービスを提供している。

LinkedInのサービス 

B-toBに関しては、主に4つのソリューションがあり、

  • 人事向け、採用ソリューション
  • 広報向け、自社サービスの宣伝・広告販促用ソリューション
  • 営業向け・セールスソリューション
  • 学習・トレーニングソリューション(オンラインコースなど)

一方、B-To-Cに関しては大きく2つで、

  • ユーザーの就職支援
  • オンラインコースでの学習支援

となっている。


パーパス

これらのサービスを束ねるのが

「connecting the world’s professionals to economic opportunity」
(世界で働くすべての人のために、経済的なチャンスを作り出す。)

というパーパスである。

このパーパスを実現するための重要な手段のひとつが、人々の就職支援。既に150万人以上のユーザーの就職を支援してきた。LinkedInの採用ソリューション・チームには2,500人の社員がおり、換算すると、採用ソリューション・チームの社員1人あたり、600人以上の人生に影響を与えていることになる。

その他にも、中小企業に広告ソリューションを提供することで、彼らに新たな顧客の獲得に繋げる。いわば、彼らにとっての「経済的なチャンス」を作り出す。また、個人のユーザーにオンライン・コースを提供することにより、ユーザーのスキルアップを図り、さらにいい仕事につながるというのも、彼らのパーパス実現の一つである。

このようにLinkedInではサービスやソリューションを自社のパーパスに結びつけている。さらに、興味深いのは、LinkedInではCSR活動もパーパスに結びつけている点だ。

CSR活動もパーパスに

CSR活動の例を2つ見てみよう。まず、環境に関するサステナビリティ項目について注目すると、彼らは次のようにゴールを設定している。「スキルアップしたい雇用者、求職者、そして従業員のスキルのために、グリーンな機会へのアクセスを公平に実現する」。

具体的な取り組みを紹介しよう。

  • 環境サステナビリティコース:サステナブルビジネス戦略、グリーンビルディング認証、サステナブル製品設計、サステナブルサプライチェーンマネジメントなどを学べる講座やコンテンツを提供している。
  • サステナブルな仕事を探す:LinkedInのプラットフォームでは、環境保全に貢献できる人材とグリーン企業との繋がりを可能にしている。
  • グリーン・ボランティアの機会を探す:LinkedInのプラットフォームで、個人が環境保護に取り組むNPOのボランティア活動を探すことができる。

前述のサステナビリティ項目のゴールを改めて見てみると、LinkedInのパーパスとぴったりと合致しているのが分かる。「スキルアップしたい雇用者、求職者、従業員」はパーパスの「全ての人」に含まれ、「公平なグリーンな機会へ」ははパーパスにある「チャンス」に含まれる。このように彼らの環境関連の取り組みもパーパスにつながるのだ。

CSR活動の二つ目の例は社会におけるインパクトについて。この領域のゴールは、「障壁に直面したプロフェッショナルが、より有意義なキャリアを築けるよう、必要なリソースやネットワークと結びつける」と設定されいる。

ここでのキーワードは「障壁に直面したプロフェッショナル」である。具体的には福祉などが十分に受けられていないコミュニティー、 恵まれていない若者、退役軍人難民など。

上記のゴールを達成するための取り組みのひとつとして、若者を対象としたメンターシップを行っている。LinkedInは、十分なサービスを受けていない地域の若者でも、メンタリングによって、キャリア構築に必要なソフトスキルを身につけられると考えている。

そこで彼らは、メンター活動を行うNPOと提携。そして、LinkedIn上で、ユーザーがメンター求人を探せるようにした。(現在のマーケットプレイスで検索してみると、アメリカで14000件以上のメンター求人が出てくる。)さらに、メンタリングボランティアに興味があるユーザーがその意思を示せる機能を追加し、NPOがこうしたプロフェッショナルを見つけられるようになった。

環境への取り組みと同じように、ここのゴールはパーパスと直結することが見える。障壁に直面したプロフェッショナルはパーパスにある「働く全ての人」に含まれ、パーパスの後半の「経済的なチャンス」は有意義なキャリアとして解釈されている。

考察と学び

CSRを中核的な活動から切り離して扱う企業とは異なり、LinkedInは事業と共にCSRの取り組みをパーパスに揃い、実行している。これによって、CSRの取り組みがブランドづくりに貢献し、信頼性が高まる。その結果、そのブランドに付加価値が加えられる。

参考:パーパスが主導するコミュニケーションの表現例

LinkedInのサービスとCSR活動が、どのようにパーパスとリンクしているかについて紹介してきた。最後に、LinkedInが2016年アカデミー賞で出稿したTVCMをコミュニケーションの参考事例として紹介しよう。

このキャンペーンのコンセプトは、「You’re closer than you think((目標や夢は)貴方が思っているより、すぐそこに)」。これのベースとなっているのは、ユーザーにとって、そして取引先にとって、現状とあるべき姿のギャップを埋める手伝いをすること。

雑誌と新聞の媒体でも展開された、この広告のコピーでこの事例紹介を結び、終わりに代えさせていただく。

「たとえ宇宙飛行士になりたいわけでなくとも、

心の奥底に皆、ムーンショット的な野望が渦巻いている。

もうすこしの時間と勇気、集中力と自信があったなら、
誰しもが、乗り出せる。

その野望こそが、自身のパーパス。
それは人生において重大な役割を果たす。

パーパスを持つ人間は、やる気に満ちて起床し、
やりがいを感じて寝床に着く。

パーパスを持つ人間は、充実したキャリアを進み、
その仕事は世界にインパクトを与える。

月まで辿り着けなくとも、誰しもが、
踏み出すことはできる。

You’re closer than you think.((目標や夢は)貴方が思っているより、すぐそこに)」