SMOのアメリカ在住コンサルタント:Justin Leeによる、パーパス経営のヒント「パーパス・ドリブン・ブランドの戦略から学ぶ」。
今回はIBM
のケーススタディをご紹介します。


IBM– パーパスを軸にしたビジネスモデル変革のケーススタディ –

 

Let’s Put Smart to Work

「Let’s Put Smart to Work」ー2018年、IBMは新しいブランディング・プラットフォームとなるコンセプトを発表した。このコンセプトでは、IBMのテクノロジーがどのように社会に変化を生み出すのかというストーリーの数々を紹介することに焦点が当てられている。

2020年初めのパンデミック発生時、IBMは元々計画していたコミュニケーション戦略を展開できなくなり、急遽新たなコミュニケーション戦略を転換した。それは、コロナ禍で起きた緊急の問題を解決するにあたりIBMの技術がどのように使用されているかに主眼を置いたものである。つまり、IBMのソリューションが、現在の私たちの生活に不可欠のEコマース取引を可能にしていること、具体的には、病院での救命活動を促進したり、サプライチェーンを確実に動かすことで人々に食料品を届けるのを可能にしていることなどをアピールした。

このように、計画通りに進めずに方向転換をする行為を、ビジネス英語ではピボット(pivot)で呼んでいる。だだし、単なる方向転換ではなく、何かを軸にし、転換するのだ。

IBMにとって、冒頭のピボットは初めてのことではない。実に100年以上の歴史の中で何度も大胆なピボットを行い、自らを変革してきたのだ。

 

変革を続けるBtoB界の巨人

1980年代、IBMはPC業界のリーダーとして台頭したが、市場の競争が激しくなり飽和状態になると、その座を維持するのは厳しくなった。マスコミから”滅びゆく恐竜”と揶揄されたIBMは、2000年代にPC市場から撤退。しかしここでIBMはビジネスモデルを再構築し、”e-business”というビジネスコンセプトを筆頭に、製品メーカーからサービス中心のインテグレーターへと変革を遂げた。さらに2010年代には、一度は耳にしたことがあるであろう”Smarter Planet”のコンセプトを掲げ、データとクラウドの将来的重要性を見据えて、それまでのハードウェアビジネスから、ビッグデータとクラウドのプラットフォーム企業へと事業領域を再びシフトさせた。そして、”Smarter Planet”のコンセプトが進化し、冒頭の述べた”Let’s put smart to work”になった。

なお、さらに創業時に遡ると、ツールメーカーとして出発したIBMが提供したツールの中の一つはなんとチーズカッターだった。彼らは事業領域のピボットを重ねて、現在の領域に辿り着いているのだ。

 

変革を可能にした鍵

IBM史の中で度々見られる、大きな変革。何をもってこれらの変革を可能とするのか?2019年のインタビューで、前CEOのジニ・ロメティ氏は、そのカギについて「”決して変わることがないもの”が何かを明確にしよう。それこそが会社のパーパスなのだ。IBMのパーパスは、常に世界において、何らかの形で”be essential(必要とされる存在)”でありつづけること。自らのパーパスが何であるかは明確にしておかないとならない。なぜなら、パーパスこそが、人々がする全ての核心にあるものなのだから。」と語った。

 

パーパスの定義

IBMの前CEOが指した、パーパスという言葉の意味をおさらいしよう。英辞書による  “purpose”は、大きく分けて2つの意味が載っている。第1は「目的」と「狙い」、第2は「〔存在などの〕理由、意義」。企業がパーパスについて話す場合、この2番目の意味合いが多分に含まれている。いわば、パーパスは、企業はなぜ存在するのかを最もシンプルかつ純粋に表現したものである。そして、辞書には載っていない、第3の意味合いもある。Facebookの創業者マーク・ザッカーバーグはハーバード大学で講演をした際、「パーパスは自分以上に大きい何かに関わり、必要とされ、より良い将来のために働きたい、という感覚であり、パーパスこそが真の幸せを作るものだ」と語った。つまり、目的と存在理由に加え、「志」や「大義」のような意味合いも含んでいる。

 

パーパスを軸に

IBMは、常にパーパスを軸に、経営環境に適したビジネスコンセプトと戦略を切り替えてきた。筆者は、このようにパーパスを軸に、ビジネス方向を転換することを「パーパス・ピボット」(purpose pivot)と呼んでいる。企業或いはブランドの「why」を軸に行動を転換する考え方はシンプルかつパワフルだ。パーパス・ピボットを常に意識すると、行動は常に信念を拠り所にし、一貫性が保持される。

また、方向転換には、あらゆるステークホルダーへの説得が必須となる。方向は変わっても、彼らが理解しているパーパスが軸で、本質的な目的は変わらないことが説明できれば、より納得させやすくなるだろう。

このように、パンデミックのような緊急事態、そして平常の状況であっても、次に向かう目的地を決めなければならない時が生じた場合において、パーパス・ピボットは大変有効な考え方である。

 

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