SMOのアメリカ在住コンサルタント:Justin Leeによる、パーパス経営のヒント「パーパス・ドリブン・ブランドの戦略から学ぶ」。
今回はApple
のケーススタディをご紹介します。


Apple Retail Store – パーパスを起点にした店舗戦略のケーススタディー

 

優れている企業は常に自らのパーパスを確認し、戦略と計画を立案する。そしてパーパスに基づいて、自分達を見失うことなく位置づけることが出来ている。それでは、常に変化する環境の中で、企業がマーケットのニーズに応じた戦略を立て、かつ、そのパーパスに忠実であり続けるにはどうしたら良いのか? アップルのリテール部門の戦略を事例として紹介しよう。

アップルは、2014年、Eコマースやオンデマンド・デリバリーの台頭によるリテール業界の目まぐるしい変化に対応すべく、つまりかつては商品の販売が主だったのが、魅力的な体験の提供へとシフトしつつあるのを見越して、バーバリーの社長であったアンジェラ・アーレンツを招いて小売戦略の大規模な進化に着手した。


パーパスを実現するためのコンセプト

アップルは、同社の中核をなすパーパス「Enriching lives」(生活を豊かにすること)を新しい小売戦略の始発点とし、そしてそのパーパスを実現するために「creating a human connection that empowers people(人々にとって力となる繋がりを創る)」というキー・コンセプトを据えた。それではこの枠組みの中でのいくつかの取り組みを見てみよう。


パーパスを元に店舗をリ・デザインする

まず、体験を中心とするリテール環境を反映すべく、アップルは彼らの店舗を、「creating a human connection that empowers people」のコンセプトから着想を得て、「ストア」形式から「アップルタウンスクエア(人が集う場)」形式へ変換をし、パーパスを元に空間を再設計した。アップルタウンスクエアの戦略は次のような5つのハードウェア機能に例えられる。

  1. プラザ:誰もがリラックスしたり友人と交流できるような開放的な空間
  2. フォーラム:お客様が他の人と創造、コラボ、コネクトできる場所
  3. ボードルーム:地元の起業家とアプリ開発者が学習・共有できる場所
  4. ジーニアス・グローブ:カスタマーサービスを提供する場所
  5. アヴェニュー : 最新の商品やサービスを紹介するコーナー

注目すべき点は、5つのうち買い物に関連する項目は1つのみで、残りはすべて人々の繋がりに焦点が当てられていることである。この戦略の素晴らしい点は小売の環境変化に適合しているだけでなく、コンセプトである「creating a human connection that empowers people」にも対応しているところにある。

 

店舗の「ソフトウェア」のアップグレード

アップルは、いうまでもなくハードだけでなくソフトウェアでも知られる。アップルタウンスクエアでも同様に、5つの特徴をハードウェアになぞらえる一方で、ソフトウェアとして、タウンスクエア内の設備を生かした、音楽、写真、ビデオ制作、アート、アプリ開発の様々なセッションで成る体験プログラム「Today at Apple」を展開した。子供連れの家族、起業家、教育者、だれでも毎日無料で参加でき、様々な年齢やバックグラウンドの人々が訪れることができる。このように、アップルタウンスクエアはソフトウェアにおいても、コンセプトである「creating a human connection that empowers people」に徹しており、そして核となるパーパス「Enriching Lives」にもリンクしているのだ。

 

 

パーパスにおける文脈からの影響

さらに興味深いのは、このリテールの戦略がアップル独自の価値観や信念からも影響を受けている点である。アップルの重要な信念の一つは、スティーブ・ジョブズの「テクノロジーは単体では十分でない。テクノロジーがリベラルアーツや人文科学と融合してこそ、胸を高鳴らせるような結果を生み出す。それはアップルのDNAに刻まれている。」という言葉に集約されている。

アップルストアには当初からGeniusというスタッフがいて、お客様の問題や課題を解決するための技術エキスパート役を担っているが、戦略を再考する際、Geniusが信念に矛盾していることに気づく。それはGeniusがテクノロジー要素に偏っていて、リベラルアーツ要素に欠けているということだ。これを正すため、アップルはGeniusを補完するリベラルアーツ部門として、アートに精通するCreative Proという役職を新たに導入した。

2014年のこの新戦略を打ち立ててから現在まで、アップルのタウンスクエア型店舗には世界中どこでも多くの多様な人が訪れ、賑わいを見せているのは周知の通りである。

このアップルの事例から、同社がパーパスと価値観を基盤に、店舗の名称やコンセプト、そして人材戦略まで、あらゆる要素を組み合わせ、どのようにして次のリテールの構図を描こうとしているか、そしてそれがいかに彼らのブランドの強さにつながっているかがおわかりいただけただろうか。すでにこの新戦略型店舗への変換から数年を経て、次にどのような戦略を立てているのか、引き続き期待していきたい。

 

 

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