SMOに寄せられる、パーパスについて、パーパス・ブランディングについて、よくある質問をご紹介しています。
本日はPart 4、既存の理念に対するパーパスの取り入れ方です。(Part1 / Part2 / Part3 はこちらから)
Q: パーパスを策定するにあたって、すでに理念体系が存在する場合、理念体系はどう変えたら良いでしょうか?
スタートアップでなく、創業からしばらく経っている企業であれば、多くの企業ではおそらくすでに理念体系が存在しているでしょう。今回は、既に組織にパーパスを含まない理念体系があり、その理念体系にパーパスを取り入れたいというケースについて見てみましょう。
理念の家
理念体系を家に例えてみましょう。家の中にはミッション、ビジョン、バリューズなどの理念要素があります。
家をリフォームするように、理念体系をアップデート方法も色々あります。それぞれを検証してみましょう。
既存の理念体系を変えるのかどうか
まず最初に考えるべきことは、既にある理念体系を変えるべきかどうかです。既にある理念体系を変えたくない(が、パーパスを取り入れたい)というケースを2つ考えてみましょう。
- 家は最近建てられたものであるか、もしくは最近手が加えられており、住民(組織やステークホルダー)は理念に手を加えずそのままにしておきたいと思っている。
- 家はかなり昔に建てられ、歴史を象徴するものであり、しかもきちんと機能している。住民たちは家に愛着を持ち、リスペクトしている。
あなたの組織がこれらのケースに当てはまる場合、既にある理念体系は変えられないので、どうやってパーパスを取り入れるべきなのか?と思うでしょう。
こういった場合、パーパスは、家とは別に策定することが重要です。家の庭に新しい建物を造るイメージです。パーパスは家に付随するものとして加えられ、家とパーパスは同じ土地で共存します。
実際によくあるのは、パーパスをスローガンとして、既成の理念体系に追加する形です。この方法であれば、既成の理念体系を守りつつ、パーパスを新しく組み込むことができます。
ただし、パーパスをスローガンとして扱うとき、ただ響きの良いフレーズを作ってしまいがちなのに注意しなくてはなりません。スローガンはいい響きでキャッチーであることと同時に、パーパスとしての役割を担わなければならないのです。パーパスの文言は「なぜこの会社が存在するのか」という重要な質問に対する答えでなければなりません。
既存の理念体系を変える場合
では、既存の理念体系を変えていくシナリオについて考えましょう。
ここでは、重要なポイントが2つあります。
- 家の骨組みはそのままにして、中をリフォームするだけなのか、それとも家を丸ごと建て替えるのか?
- 工事の作業量の度合い。少しだけ改修するのか、それとも大きく改造するのか?
上記のポイントから、2×2の4つの理念体系変更のマトリックスを作ることができます。つまりそれらは、理念体系を変更する場合の、4つのオプションです。
オプション1:家の骨組みを残し、ミニマムの作業を行う
このオプションにおいては、家の骨組みをそのままにし、最低限の工事でパーパスを組み入れることができます。つまり、既存の理念体系の形と、中にある要素をできるだけ維持し、違和感が生じないようにパーパスを入れることです。
例として、弊社が実際お手伝いした一つのクライアントでは、すでにビジョン、ミッション、バリューズの三つで構成されたブランドプラットフォームを持っており、三角の図で体系が整理されていました。パーパスを設定してから、その三角の中心に置くことにしました。
オプション2:家の骨組みを残し、大規模改修を行う
このオプションは、上記と同様に骨組みは崩しません。しかし、中身や重要な要素を大きく改編していきます。家でいえば、外壁はそのままに、部屋の壁をぶち抜いたり、部屋のリモデルをすることにあたります。
例えば、あなたの組織にこのような4層の理念ピラミッドがあるとしましょう。
- ミッション
- ビジョン
- バリューズ(複数存在)
- 行動指針(複数存在)
仮にそれぞれの層を調査し、分かった結果は、ビジョンの言葉遣いが古く、またバリューズと行動指針を合わせて10以上の項目になるため、従業員は全てを覚えるのが大変だということがわかりました。
パーパスを作るにあたって、ビジョンと行動指針もアップデートし、例としてこのようなピラミッドを作ります。
- パーパス
- ミッション
- 新しいビジョン
- ウェイ(5項目)
ピラミッドの形はそのままですが、中にある要素はリフォームされました。
オプション3:家は建て替えるが、以前の要素を残す
このオプションでは、家は建て直しはするものの、既存の理念体系にあるまだ活かせるものを捨てずに使う手です。つまり、骨組みを変えるが、中身の一部は以前の要素で構成されるということです。
例えば、創業の精神などの大事な部分はそのままにして、ミッションの中にある重要な要素を、パーパスとして策定し直します。最後にバリューズのセットを足します。できあがった家は見かけは新しいながらも、要素は以前の大事な部分を踏襲しています。
オプション4:家を丸ごと完全に建て替える
このオプションでは、今あるもの全てを捨てて、完全に新しい理念体系を作ります。言わば、完全な建て直しです。緊急事態の場合によく見かける選択肢です。
会社が大きな転換や、方向転換のための刺激が必要な際によいでしょう。最も極端の手段とし、チェンジ・マネジメントを要するため、慎重に進めなければなりません。
一つの例として、Uberがあります。2018年、パワハラの告発や不健全な企業文化により、CEOが辞職させられました。企業文化を再構築するために、新CEOのDara Khosrowshahiが理念を完全に刷新し、新しいミッションと新しいバリューズを制定しました。
理念が浸透しやすいかどうかという視点の重要性
既存の理念体系をアップデートする方法は上記のように数通りありますが、全てのオプションにおいて、組織は理念を浸透させる必要があるということを忘れてはいけません。理念体系が複雑だと、理念はなかなか理解できず、覚えてもらえません。
ビジネスを取り巻く環境は今まで以上に情報過多で複雑になっています。大抵の場合、理念体系はシンプルにした方がよいでしょう。シンプルさが浸透のしやすさにつながるからです。
なぜ組織が存在するのか
繰り返しになりますが、パーパスの役割は「なぜ我々は存在するのか」に対する答えです。
理念体系をアップデートし、構造とその内容を考える上で、パーパスを足すかどうかは焦点ではありません。会社がなぜ存在するのかを、明確かつ十分に表しているかどうかが重要です。それこそが全てのステークホルダーに「なぜ」(WHY)を伝えるのに役立ちます。
参考:理念体系の簡素化をしないほうが良いケース
理念体系はシンプルであればあるほど良いと説明しましたが、例外は無論あります。参考までに、シンプルでない方がいいケースを二つ紹介します。
1:エンジニアがたくさん集まるような会社は、複雑な体系を理解することにやりがいを感じるかもしれません。さまざまな理念的要素が図上でつながることにワクワクするかもしれません。
2:出版社では、長い文章を好む文化があるかもしれません。社員たちは長くても、美しい、説明的な理念の方に共感するかもしれません。
→ 常に文化を意識し、理念体系をアップデートするのがポイントです。