世界中の広告関連の祭典「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」が6月20日~24日の5日間にわたり、3年ぶりに現地カンヌの会場で開催されました。

世界3大広告賞といわれるOne Show、クリオ賞に加え、カンヌライオンズは中でも最大級のアワードとして、各国から厳選された審査員によって、細かい部門ごとにグランプリ・金賞・銀賞・銅賞が設けられ、クリエイターにとっての最高峰にもなっています。

カンヌライオンズ会長のフィリップ・トーマス氏は、日経新聞への取材に対し、「”企業のパーパス(存在意義)“や”持続可能性(サステナビリティ)”が今大会の大きなテーマとなるとし、ブランドは自らのパーパスを伝えるためのコミュニケーションを行うこと、またビジネスをサステナブルにしていくことが重要になる」と答えました。

出品作のラインナップにおいてもパーパスは大きなキーワードどなり、結果的に受賞した作品の3分の2以上が、アクセシビリティ・ジェンダー平等・公衆衛生・気候変動などの社会問題に対する取り組みを訴える”パーパス主導型”広告であったと言われます。

今回は、2022年カンヌライオンズのグランプリ受賞作品のうち、実際に自社のパーパス(もしくはブランド理念)を正しく理解し、その真実性(オーセンティシティ)を作品の中心に据え発信した例をご紹介します。

・ VICE World News 「The Unfiltered History Tour」

この、博物館提供”ではない”、「フィルター無しの歴史ツアー」の広告キャンペーンでは、大英博物館の収蔵品を見て回る独自のAR(拡張現実)ツアーを紹介しています。こちらはアメリカのニュースメディアVICE World Newsによるものであり、大英博物館の広告ではありません。芸術品の原産国の人々の生の声を伝え、博物館側目線で勝手に設定してしまっているフィルターを批判さえしています。そうしたフィルターを外して歴史を眺めることで、今まで見えてこなかった事実を自ら体験しようと訴えているのです。これは、VICEのタグラインである “Original reporting on everything that matters (重要なことはすべてオリジナルで報道する)に基づいて作られたもので、多くの人々に、囚われた視点からでなく別視点から事実を把握することの重要さを再認識させました。こちらは、Radio&Audio部門、The Brand Experience&Activation部門、Social&Influencer部門など多くの部門でグランプリを受賞し、Spikes AsiaやOne Showといった他の祭典でも賞を総なめしている注目作品となっています。

・ Suncorp「One House to Save Many」


Suncorp Groupはオーストラリアとニュージーランド地域で最大の損害保険グループの一つで、”Building futures and protecting what matters(大切なものを守り、未来を築いていく)”をパーパスとしています。こちらの広告キャンペーンでは、異常気象の被害を受けた人々の惨状から、それを実際に見てきた損害保険会社として、地域に根ざした具体的かつ革新的対応策としての「災害に耐えうる、人々を守る強靭な家」の提供を、大学機関や専門機関と協力して行っているストーリーをCMにしています。この広告はInnovation部門のグランプリを受賞しました。

・ WE Capital「Data Tienda

Creative Data部門とGlass部門のグランプリを受賞したこのキャンペーンでは、メキシコのWE Capitalという金融サービスの会社が、メキシコで社会的信用が得られていない女性がローンを組めない問題を、実際に体験した女性の声を用いて伝え、従来とは異なるルートで審査をする データ・ティエンダというシステムを開発し、女性活躍支援の促進をしていることを伝えています。これは、WE Capitalのミッション:”To advocate and invest in female leadership with the dual aim of promoting social impact and generating financial returns.(女性のリーダーシップを擁護し、投資することを、社会的インパクトの促進と財務的リターンの創出の双軸から行う)”に基づいた戦略によるものです。

 

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