本日11/30はブラックフライデー。日本でもここ数年でよく見かけるようになり定着しつつあるセールイベントですが、もともとアメリカでは、11月の第4木曜日の感謝祭の祝日を家族や親戚で集まって過ごした翌日に出かける、クリスマスショッピングの最初の日という位置付けでした。それが年々セールイベントとして激化していき、例年、大型店に押し寄せる人の波のカオスぶりがニュースで伝えられるようになっています。店員や警備が忙しすぎる「ブラック」な日だから、または売り上げが「黒字」になるから、など語源は諸説あるようです。

そんな中で、本場アメリカで、この動きを見直すべきだという風潮も出てきています。アウトドア洋品店のREIでは、ここ5年ほど、ブラックフライデーは全店舗で休業とし、従業員が余暇を好きな人とゆっくり過ごせる有給日としています。REIの公式サイトでは、この動きを世界に広めるべく、ブラックフライデーは好きな人と、外に出て、清掃活動も行おう、という推奨運動を「#OptOutside」として展開しています。


さて、同じアウトドア業界で、2011年という時に、すでにブラックフライデーの弊害を唱えていたブランドがありました。それが、パタゴニアです。2011年11月25日、ブラックフライデーの当日に、NYタイムズの一面広告で、パタゴニアを代表するフリースジャケットの大きな写真と共に、「DON’T BUY THIS JACKET」と銘打ったのです。

これはいわゆる炎上狙いのキャンペーンのようなものではありません。1953年に創業し、80年代から環境保護に取り組んできたパタゴニアは、「生産される商品全てのものが、地球から何かを奪ってしまう。たとえオーガニックであれリサイクルであれ、生産過程で温室ガスや廃棄物を産み出してしまう。ものを購入する前に、より良い環境を維持するために、よく考えてから買って欲しい」として、この広告を出すに至ったのです。 

2016年には、パタゴニアはブラックフライデーセールを開催。一見矛盾するようですが、そのセールは、売り上げの100%を環境保護団体に寄付するものでした。結果、予想の5倍となる約11億円の売り上げを達成しました。原価も含めた売り上げの全てですから、パタゴニアにとっては赤字ですが、環境のための政策や規制を擁護するため、そして少しでも多くの人が環境への強い価値観を持てるようにとのことでした。 


 

今年になり、パタゴニア社は、それまでの「最高の商品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」という企業理念を、 

私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む。 

へと変更しました。これらは、「ミッションステートメント」として記されてはいるものの、それまでの「how」が書かれたものから、”地球を救うため”という、はっきりと「why」が書かれたパーパス主体のものになったのです。 

これについて、先日掲載されたForbes(US版)のインタビュー記事によると、ビジネス戦略を進めていく上での北極星として、今こそ存在意義をシンプルかつはっきりと示す必要性があったからだとしています。そして、短期的な収支は気にせず、常に長期的な視点での判断をしており、そうしたことからパタゴニアは20年をかけて、化学薬品を大量に使う綿製品の加工過程を見直してオーガニックコットン市場を開拓してきたとのこと。今後も、2025年までに「全てのアパレルの素材をコットンやウールなどの自然素材、もくはリサイクルでできた素材を使用する」などの野心的な目標を掲げて、地球を守るための経営をしています。 

インタビュー記事の冒頭で、Forbesは、マーケティングの「5P」として、これまでの4P(プロダクト、プライス、プレイス、プロモーション)に続く5つ目のPがパーパスになるのではと書いており、それは2013年にすでにコトラーがインドでの講演で提唱した通りです。パーパス主体の企業理念を据えて、長期的な戦略を立てていく。これこそ、SMOが推進するグレート・ブランドへのステップです。パタゴニアは業績も好調で、収益は過去10年で4倍に拡大。年間売上高は、現在約1100億円に達しています。