<こちらの記事は、SMOタブロイド誌「TOKYO 2018」からの抜粋です。TOKYO20xxシリーズについて、最新版は、こちらよりダウンロードいただけます>

 

――堺屋さんは、近頃、『団塊の後 三度目の日本』という本を上梓されました。この中で、今後、近い将来、東京そして日本が成り立たなくなる、と論じていらっしゃいますね。

堺屋 今、日本は「少子高齢化」という深刻な問題を抱えています。このまま人口減少が進めば、どんどん空き家が増える。地方ではすでにそうした現象が起こっています。そして、これから先は東京も例外ではなくなるでしょう。「オリンピック」というある種の成長促進剤が切れてしまえば、東京とて同じ道を辿らざるを得ないでしょう。

――そもそも、人口減少を招いた根源は、一体、何でしょうか。

堺屋 ずばり、官僚主導体制です。戦後、佐藤栄作内閣ぐらいまでは日本は政治主導体制にあり、ゆえに沖縄返還のような大胆なことが実現していました。しかし、その後、田中角栄首相が石油ショックで人気失墜してからは、世の中が官僚主導で動いている。この官僚主導によって何が起こったか。第一に「東京一極集中」。第二に「流通の無言化」。つまり、おしゃべりをしながら買い物をする小売店ではなく、黙って買い物するコンビニや自動販売機を普及させていったのです。第三に「小住宅・持ち家主義」。中国では住宅を買える人は大きな家を買う、買えない人は買えないといったように厳然たる格差があります。ところが、日本は住宅ローンによってみんなが買えるような小さい家を作ったのです。 そして、第四に「正社員至上主義」。親類とも近所とも付き合わず、勤め先にだけ忠実なサラリーマンの群を作りました。この結果、日本人のライフスタイルはすっかり“規格化”されてしまいました。大学まで一直線に進学することがよしとされ、大学を卒業したら、すぐ就職して正社員になるのが最良という風潮です。そして、働き始めたらまずは蓄財し、ある程度、貯まってから結婚、出産。きちんと順を踏むのです。でも、この筋書きではどうしたって女性の初産の年齢が上がってしまう。そうなると、生まれる子供の数が限られる。これが人口減少に繋がっているんです。かといって、この官僚主導体制によって設計されたライフスタイルから人はそう簡単には抜け出せません。なにしろ、それに則って人生を送った方が、今の世の中、福祉も税制も一番有利になるように仕組まれているのですから。

――そうやって日本人を規格化することが、戦後の日本経済を成長させるためには必要だった、と?

堺屋 ええ、確かに高度成長時代はそうでした。しかし、もういい加減、日本は根本的な価値観を改める時期に来ていますよ。

――では、具体的にどうすればいいでしょうか?

堺屋 まずは何より政治が主導権を取り戻し、民意が反映できる世の中にすることです。しかし、現行の小選挙区制で議員が多様化しづらいため、難しい。選挙制度自体にメスを入れる必要があるでしょうね。

――政治主導のほかには?

堺屋 地方自治の確立。官僚が主導した東京一極集中によって、多くの企業が東京に本社を置き、その結果、東京にばかり税金が納められているという現実があります。その上、人口減少で空き家が増えれば地方自治体の税収は減るばかり。これを放ってはおいてはいけません。どうすればいいか。やはり道州制を採用すべきです。現在の47都道府県は、明治4年に施行された廃藩置県で誕生したわけだけど、クルマ社会の現代においては、ひとつひとつの府県の区域が狭すぎますよ。憲法改正に関しては9条ばかりが俎上に載せられていますが、地方自治について語られている第8章のことも、もっと議論していかないと。

――今は2020年に対する期待感でやり過ごしていますが、終わったら、一気にショックに見舞われそうな予感がしますね。

堺屋 危険ですよ。私はね、日本は2020年以降、3度目のステージを迎えると考えているんです。1度目は明治維新で生まれた「強い日本」、2度目は戦後から高度経済成長やバブル期を経て現在に至る「豊かな日本」。そして、3度目の日本が目指すべきは「楽しい日本」。今の日本に欠けている“多様性”と“意外性”を持つことです。安全、安心、正確、清潔であることは日本の誇りであり、すばらしいとは思いますが、あまりに統制されすぎている。どことなく戦時中に似ているね。言っている内容よりも、みんなが同じことを言っているようで…。

――「楽しい日本」にするにはどうしたらいいでしょうか?

堺屋 既存の日本のシステムを変えて、ベンチャーが起こる国づくりをしなければ。つまり冒険心と意外性に賭ける楽しみです。そして、ベンチャーは外国人を積極的に受け入れ、その際、外国人には不動産に投資していただく。そうでないと日本に定着してくれませんから。もっと言えば、なるべく国籍を日本にして、お子さんを育てていただきたい。そうすれば人口減少問題も少しずつではありますが改善されてくるはずです。

――子育て支援の制度を整備して、子供を産みやすい環境も作っていかないといけませんよね。

堺屋 もちろんそれもそうですが、だからといってすぐに“産めよ増やせよ”というわけにはいかないでしょう。よって、視点を変えるんです。人材育成のために、スイスのような全寮制の学校を作り、日本に対する愛郷心を持って、根付いてもらう。先ほど申し上げたベンチャーの例と同様に、日本と世界の国境をオープンにするんですよ。そうすることが「楽しい日本」に近づく有効な一歩となるように思いますね。

 

 

堺屋太一(さかいや・たいち)

作家・経済評論家。東京大学経済学部卒業(1960年)後、通商産業省入省。日本万国博覧会の提案、企画・実施に携わる。沖縄開発庁に出向中には沖縄国際海洋博覧会及び観光開発を手掛けた。1962年通商白書では「水平分業論」を展開し、世界的に注目される。1978年に退官。作家として予測小説手法を開発、「油断!」「団塊の世代」「平成三十年」等のベストセラーの他、歴史小説「巨いなる企て」「峠の群像」「豊臣秀長」「世界を創った男 チンギス・ハン」等を執筆。また、1985年に出版した経済理論「知価革命」は世界8カ国語に訳され国際的評価を得ている。1998年7月~2000年12月まで経済企画庁長官を歴任。2010年上海万国博日本産業館代表兼総合プロデューサーを務め、好評を博した。現在は、内閣官房参与、大阪府及び大阪市特別顧問を務める。