あなた自身のパーパスとは?いま働いている会社やこれから働こうとしている会社のパーパスと、個人のパーパスは一致していないといけないのでしょうか?弊社パーパス・コンサルタントのJustin Leeが、「個人と組織のパーパス」について考察を展開しました。

 


組織の可能性を最大限に引き出すには、各従業員のパーパスが、働く組織のパーパスに沿ったものであることが重要だという見方があります。

これを実践する場合、 企業は、従業員の個人のパーパスを明確にさせ、そしてそれを組織のパーパスに結びつけられるように導きます。個人のパーパスと組織のパーパスが重なりを持ったとき、個人はそのパーパスを達成すべく、働くモチベーションが上がります。副産物として会社のパーパスも実現され、双方にとってwin-winの状況をもたらします。

しかしながら、実際のところはそう簡単にはいきません。個人のパーパスというのは、かなり複雑なものだからです。

 

A sense of purpose

「あなたのパーパスはなんですか?」―もしあなたがこの質問をされたときに、はっきりと自信を持って答えられなかった場合、それはあなたにパーパスがないということなのかというと、そうとは限りません。

2018 年、BlackRockのCEOであるラリー・フィンク氏は、CEOへの年次書簡のタイトルを「A Sense of Purpose」としました。この手紙の中で、彼は次のように述べています。

「パーパスがなければ、株式公開企業であろうと非公開企業であろうと、その組織のポテンシャルを最大限に発揮することはできません。」

「A sense of purpose」は英語でよく使われるフレーズです。最近では、ハーバード大学での卒業式にスピーカーとして登壇したFacebookのCEO、マーク・ザッカーバーグは、卒業生に向けた世代役割について次のように語っています。

「私たちの世代がやらなければならないことは、誰もが“sense of purpose”を持つ世界を作ることです。」

さらに歴史をさかのぼると、元英国首相のマーガレット・サッチャーはかつて次のように述べています。

「成功とはなんでしょうか?それは、その仕事への生まれ持った才能を持ち、そしてそれだけでは不十分だということをしっかりと理解した上でsense of purposeを持って努力すること、その2つが合わさってこそであると思います。」

ここで注目したいのは、” a sense of purpose “という言葉です。

「a sense of purpose」、つまり高い目的意識(感覚)があるということは、大きく、熱望する何かに突き動かされているということであり、それは通常は、他人や世界への奉仕の中にあります。

「sense」という言葉が示すように、パーパスは 「フィーリング(感覚)」的なものでもあります。ある感情を表現する言葉を見つけるのが難しいように、パーパスもまた同様かもしれません。パーパスを持たずに、人生がゆくままを受け入れる人がいる一方で、対極として、非常に明快なパーパスを持つ人もいます。また、文章として明確なパーパスを持たずとも、しっかりと「sense of purpose」を持ちながら前進を続ける人もいます。

個人レベルでのパーパスというものは個人差の「幅」があるので、必ずしも一つの形として明文化される必要はありません。

 

パーパスを見つけることは簡単ではない

マーティン・ルーサー・キングJr.、ネルソン・マンデラ、エリザベス女王、グレタ・トゥーンベリ、 マララ。彼らは、パーパスによって動かされ、それによって定義された勇ましい人物たちです。彼らは、それぞれ、一つ明確なパーパスを持った人間としてのモデル像になっています。

まだパーパスを見つけられていないものの、見つけようとしている人たちはどうでしょうか?

ゼネラルミルズ(※ハーゲンダッツやチェリオスなどのブランドを擁する米国を代表する食品小売大手)の2022年頭のパネルディスカッションで、同社の元最高ブランド責任者ブラッド・ヒラナガは、自分自身のパーパスを考えることについて語りました。彼自身の言葉を借りれば、「それはとても大変である」です。

なぜそれは大変なのでしょうか?

個人のパーパスを例えると、個人の人生、そしてアイデンティティなど、複雑に絡み合った糸の中にある一本の糸です。個人のアイデンティティのさまざまな部分を結びつけている一本の糸を見つけるのは、困難を極めます。さらには、自分の心に共鳴する糸を見つけねばならず、そして最終的にパーパスとして言語化までしないとならないのです。

 

パーパスの様々な種類

何が私たちを動機づけ、駆り立てるのかは人それぞれです。これらの原動力を、マズローの古典的な理論:人間の欲求階層説から見てみることができます。

  • Self-transcendence(自己超越欲求)
  • Self-actualization(自己実現の欲求)
  • Self-esteem(承認欲求)
  • Love and Belonging(社会的欲求)
  • Safety(安全の欲求)
  • Physiological(生理的欲求)

マズローのモデルは、個人が異なる階層にいる可能性を示唆しています。つまり、ある時に、私たち一人ひとりにとって、最も重要な欲求は異なるということです。さらに言えば、「あなたの原動力になるもの」と「私の原動力になるもの」は、それぞれマズローのピラミッドの異なるカテゴリーにある可能性が高いです。

  • ある人は、家族の世話をすることが彼らのパーパスになります。(社会的欲求)
  • ある人は、自分の分野で一番になることです。(自己実現の欲求)
  • ある人は、他の人を助けるために。(自己超越欲求)

パーパスは多様です。パーパスはカラフルなものです。パーパスは深く個人的なものであり、私たち一人ひとりによって異なるものです。個人のパーパスと組織のパーパスを一致させようとするときに、重要なのは、組織が多様な種類のパーパスを考慮し、尊重し、受け入れるようなやり方を採用しないとならないことです。

マズローのピラミッドの各カテゴリーを、高速道路上の異なる車線として想像してみてください。私たちはそれぞれ別の車線で、異なる速度で運転しています。 すべての車を無理やり一つの車線に押し込んで、同じスピードで走らせるとどうなるか?あまり配慮しないままに社員のパーパスを揃えるということは、そういう状況と同じことです。

 

複数のパーパスを持つ人々

これまで、個人が一つのパーパスを持つ場合について見てきました。では、1人の人間が、複数のパーパスを持つことは可能なのでしょうか?

複数のパーパスを持つことに問題はありません。アイデンティティと役割の文脈でパーパスを見ると、これは理にかなっています。

「あなたは何者ですか?」この問いについての、ある人の答えはこうかもしれません。「私は父親であり、環境保護活動家であり、新聞社で働くジャーナリストでもあります。」

この例が示すように、私たちは複数のアイデンティティと役割を持っています。その結果、それぞれのアイデンティティに対して、それぞれのパーパスを持つことができるということです。

さきほどの人は、3つのパーパスを持つことができます。

  • 父親として最高な父でいること
  • 環境家としての地球への活動を通じて、子供のためによりよい世界をつくること
  • 質の高いジャーナリズムで世界に情報や気づきを届ける

この角度から見ると、組織のパーパスとの一致はより複雑になってきます。まず、さきほどの人の場合、3つのパーパスをすべて一致させるべきなのでしょうか?4つ目のパーパスを設定するよう求めるのでしょうか?そして、組織のパーパスと一致するような形で、それらのパーパスを統合する方法を見つけるよう求めるのでしょうか?組織の規模や大きさからして、そういったことが可能なのでしょうか?

では、極端な反対例として、パーパスが全くなくても良い例というのを考えてみましょう。

 

意図的にパーパスを選択しない

仏教には、「中庸」という考え方があります。これは、ポジティブとネガティブの両極端を提示されたとき、人はその中間を選ぶべきだという考え方です。

この原理をとってみると、次のように捉えることができるかもしれません。パーパスがあれば、喜びや積極性が生まれる。パーパスがないときは、不安があり否定的な気持ちになる。このように考えると、人はパーパスを持たないことで両極端から距離を置き中庸をとるべきでしょう。

仏教の専門家ではない立場から、この解釈がとても正しいと言い切りませんが、ここで伝えたいのは、人はパーパスを選択せずとも、生きる上での信念を持つことは十分に可能だということです。個人的なレベルでは、パーパスは哲学的なものであることもあれば、宗教的になることもあり得ます。

 

パーパスと宗教

2002年、キリスト教牧師のリック・ウォレンが『The Purpose Driven Life:私はいったい何のために地球にいるのだろう?』という聖書学習本を出版しました。この本は、ニューヨークタイムズで3500万部を超えるベストセラーとなりました。

この本の冒頭は、

「あなたの人生のパーパスは、あなた自身の自己実現や心の安らぎ、あるいは幸福よりもはるかに大きなものです。あなたがこの惑星に置かれた理由を知りたければ、まず神から始めなければなりません。あなたは神のパーパスによって、神のパーパスのために、生まれてきたのです。」

ある人々にとって、パーパスは深く宗教的なものであることは明らかです。そのため、組織はこの領域を慎重に進め、多様な宗教的背景を尊重していく必要があります。

 

アプローチの視点を変えよう

ここまでで、さまざまな観点からパーパスについて見てきました。個人のパーパスは多次元的であり、複雑に結ばれています。個人と組織のパーパスを一致させることは、「言うは易く行うは難し」です。

この難しい課題に関しては、直接的に取り組むよりも、「個人のパーパス」と「組織のパーパス」の関係を見るのではなく、「個人」と「組織のパーパス」の関係に焦点を当てる方が賢明でしょう。そこでは、「組織のパーパス」が「個人」と共鳴しているかどうかということが重要です。

 

組織のパーパスと個人の信念

詳しく見ていきましょう。まず、企業が個人にとって何が重要か、大事な価値観を理解することが必要です。これを信念(beliefs)と呼ぶことにしましょう。

組織がそのパーパスを実現しようとするとき、個人のパーパスと組織のパーパスを一致させるよりも、個人の信念と、組織のパーパスの間に重なりがあるかどうかの確認をしましょう。理想的なのは、組織のパーパスが個人の信念体系の中に完全に収まっていることです。

たとえば、もしあなたが地球と環境に気を配り擁護するような方なら、間違いなくパタゴニアのパーパス「故郷の惑星を救う」はあなたの心に響くことでしょう。

それは、あなたがパーパスを信じているかどうかに帰結します。そのパーパスは、あなたの信念体系に合っていますか?パーパスを浸透させるためには、その適合性を見つけることに焦点が置かれます。なぜなら、結局のところ、あなたが心からパーパスを信じていれば、あなたはそのパーパスに突き動かされ、そのために行動を起こす可能性が高いのです。

このように個人のパーパスから個人の信念の視点に変えることで、アプローチも変わります。従業員への本質的な質問は、「あなたのパーパスはなんですか?」と「それは組織のパーパスとどのように繋がっていますか?」から下記に変わります。

  • あなたにとって大切なもの、大切な価値観は何ですか?(あなたの信念)
  • あなたの信念は、組織のパーパスとどのように関係し、繋がっていますか?

個人と組織のパーパスを一致させるよりも、人生の中で大切なもの・価値観を見極め、組織のパーパスとのつながりを見出す方が難しくないのです。個人レベルのパーパスに関する複雑な問題も、このアプローチであれば回避が可能です。これは、あなたの組織のパーパスをさらに活性化させる、シンプルでアプローチしやすいモデルなのです。