SMOのアメリカ在住コンサルタント Justin Leeによる、パーパス経営のヒント「パーパス・ドリブン・ブランドの戦略から学ぶ」。
今回はマイクロソフトと任天堂のケーススタディをご紹介します。



Microsoft Teams 
– パーパスを起点にしたコミュニケーションのケーススタディ –

IBMのパーパス・ドリブン・ブランド戦略事例では「パーパス・ピボット」と言う概念を紹介した。パーパス・ピボットとは、パーパスを軸に、ビジネスコンセプトや戦略の方向を転換する考え方である。今回は、もう一つのパーパス・ピボットのケースを紹介しよう。マイクロソフトのTeamsの事例だ。

マイクロソフトのBtoBオンライン会議サービスTeamsの米国でのコロナ禍でのCMは、「世界は変わった。人々は新しい方法でつながり始めた」というメッセージで始まり、BtoB顧客がパンデミックの間もどのように仕事を続けたかの体験談を次々と紹介する。そして「チームを止めるものはない」と締めくくられている。

 

このCMで紹介されたエピソードについて、Jared Spataro(マイクロソフト365のバイスプレジデント)は同社のブログで「マイクロソフトの存在理由が表現された」と説明した。マイクロソフトのパーパスは、「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」と補足した。同CMはまさしくこのパーパスに沿ったものである。

 

同社は、平常時では、高い品質の凝ったCMを作っているが、ソーシャルディスタンスが必須の環境では、それを実現できなかった。そこで、監督やスタッフ、照明、マイクなどの設備を一切やめ、ウェブ会議の映像のままCMを作ることに切り替えた。ただし、核となるアイディアはパーパスなのだ。つまり、パーパスを軸に、やり方を変えること。パーパス・ピボットの良い例だ。

 

パーパスがブランド価値を高める

パンデミックという緊急事態の中、マイクロソフトは、他の大企業と同様に医療機器や備品の寄付といった慈善活動を広く行なっており、その数々を広告でアピールするという選択肢もあった。その方法でも好感度アップには繋がっていただろうが、パーパスと結びつきがあるCMのほうが、よりブランドらしさを感じることができる。パーパスを起点にしたコミュニケーションと活動は、よりブランド価値を高めるのだ。

マーケティング、PR、IRなど、企業のあらゆるコミュニケーションにパーパスを取り入れることで、企業が伝えたいメッセージを「オン・ブランド」にすることができる。つまり、メッセージをブランドの核に結びつけることにより、よりブランドらしさを出せるのだ。

 

パーパスとCSRを連動する効果

では、ブランディングの観点からいくと、CSRは積極的に発信しない方がいいのだろうか?ここでも、パーパスを常に起点にすると、企業の活動やコミュニケーションに一貫性が生まれ、解像度の高いブランドイメージを育成することができる。

CSRの発信よりも、一歩引き、CSR活動自体がポイントとなる。CSR活動がパーパスと連携されると、そのCSR活動における発信はブランディングにより貢献することができる。

パーパスとCSRとの連動に関しては、すでにLinkedInの事例を紹介した。CSRを中核的な活動として行う事例としてもう一つ、マイクロソフトの本拠地、シアトルに米国支社を持つ任天堂の事例を紹介しよう。


 

Nintendo – パーパスを起点にしたCSR活動のケーススタディ –

 

「娯楽を通じて人々を笑顔にする」が任天堂の理念であり、核である。同社の2015年のCSRレポートを見ると、任天堂はCSR活動を「任天堂に関わるすべての人を笑顔にする活動」と定義している。彼らのパーパスにある「人々を笑顔にする」ことから派生されたことが分かる。

そして、2015年人気キャラクターのマリオの30周年の取り組みの一環として、同社は米国で、マリオをテーマとした撮影動画をユーザーから募集するキャンペーンを行った。歌でもダンスでも体験談でもOKとされ、投稿したビデオはYouTubeで公開される。その動画から得られた広告収入は、任天堂が計画した寄付額に加える仕組みで、寄付は、オペレーション・スマイルという国際チャリティーへ贈られた。オペレーション・スマイルは、途上国にいる口唇裂(こうしんれつ)・口蓋裂(こうがいれつ)という疾患の子供達に修復手術の支援をするNPOだ。この疾患は、唇や口の中の天井にあたる口蓋に、裂け目がある状態で生まれてくる先天性の病気で、口を開いて笑顔を見せることができなかったり、上手く食事が出来なかったりするが、手術により、笑顔を手に入れて普通の人生を送れるようになるのだ。

キャンペーンそのものとCSRが直に、パーパスにある笑顔作りにつながっていることが理解できよう。

 

今回は、マイクロソフトと任天堂の事例を通じ、事業とCSRの取り組みをパーパスに揃い、実行し、発信することで、具体的にどのようにブランドづくりに貢献し、信頼性も高まることを見てきた。より良いパーパスブランディングのヒントになれば幸いだ。

参考文献 LetsSuperMario.com : To continue the celebration of Super Mario’s 30th anniversary, fans around the world are encouraged to create personal “Let’s Super Mario!” video tributes that showcase their love for the legendary franchise. The videos can be submitted to a dedicated website starting today and might be shared by Nintendo on the website. Whether it’s through song, dance or reliving favorite moments, Nintendo will honor Super Mario by showcasing the creativity of our fans. In the spirit of Nintendo’s mission of putting smiles on the faces of everyone that experiences our products, Nintendo’s share of any ad revenue generated from the Let’s Super Mario 30th Anniversary videos will go toward a donation Nintendo is making to Operation Smile, a global surgical charity dedicated to healing the smiles of children around the world suffering from cleft lip and cleft palate. For more information, visit http://www.operationsmile.org

 


 

パーパス・ドリブン・ブランドの戦略から学ぶ

他事例はこちらからご覧ください。