先日弊社が公開したオリジナルタブロイド誌「TOKYO 2023」の中に、「持続可能な企業の条件」というコラムがある。その中に、パーパス主導企業が存続するための条件を備えた本物の企業の事例を紹介した。事例の一つとして挙げたアウトドアウェア・ブランドのパタゴニアでは、創業者が去ってから、会社がどのように自社のパーパスを見失わずに繁栄しつづけることができるか、その新たな仕組みづくりをしている。

パタゴニアでは、会社の売却や株式公開という一般的な選択肢に満足できず、あまり見ない稀なアプローチを取った。創業者はパタゴニア・パーパス・トラストという組織(本社と切り離れたもの)を設立し、次に、パタゴニアの議決権付き株式の100%をこの組織に移管した。このパーパス・トラストは、パタゴニアの理念と価値観を守ることを唯一の目的とし、パタゴニア社の経営方針を常に地球を救うために向けさせる役割を果たしていく。欧米では、このパーパス・トラストというガバナンスの仕組みに注目する企業が増えている。長年パーパス経営をしてきた一部のリーダーが引退を迎える時期にあるという背景がある中で、一つの例を紹介しよう。「スモール・ジャイアンツ:事業拡大以上の価値を見出した14の企業」に登場した「Zingerman’s Community of Businesses」(ZCoB)というミシガンの企業だ。

スモール・ジャイアンツのZCoB

スモール・ジャイアンツとは、成長し続けることだけを選ばずに、ひたすら自社の理念にこだわり、それを実現する企業のこと。その1つである Zingerman’s Community of Businesses(以下、ZCoB)は、80年代にミシガン州で創業、地元に根付いてきた食関連の店舗(デリ、パン屋、お菓子、カフェなど)を持つ企業である。品質とサービス、そして体験に徹底的にこだわり、創業以来地元で繁栄してきた。あらゆる所から全国展開の誘いがあったにもかかわらず、地元の顧客と社員に真摯に向き合いたいということで、全国展開の機会を断ってきたという。

ZCoBの創業者兼社長は、今年の1月に冗談口調で「giving away the store」(店と会社を手放す)と発表した。事実上、社長が会社の所有権を会社にあげることにしたという。10年間で計画を練り、パタゴニアと同様、パーパス・トラスト( Perpetual Purpose Trust)という仕組みを導入した。社長は、このようにコメントした:

「1982年の開店以来、私たちが心がけてきた経営方法を今後も長きにわたって忠実に継承していくために、一般的ではないが完全に前向きな方法を採ることにしました。それがPerpetual Purpose Trustで、Zingermanをこの地域にとどめ、思いやりと意義のある方法で、今後何年にもわたって地域に貢献し続けるためのものです。このトラストは、地域社会に根ざし、そこで働く人々に利益をもたらし、また、組織が長年にわたる行動指針原則とミッションに忠実でありつづけるように設計されています。」

この仕組みにより、ZCoBは理念を追求しつづけられるようになり、将来の売却や国内外展開を防ぐようにしている。

パタゴニアとZoCBの例から一つのことが考察できる。大きさと成長に惑わされずに、グレートネスを追求しつづける。パーパス主導であり続けるためには、意志のほかに、仕組みも重要であるということだ。


引用: